千提寺発の絵本『ザビエルさんのたから』の刊行を祝す
上智学院理事長 髙祖
(キリシタン文化研究会会長)
千提寺はキリシタンの里です。大阪府茨木市西部の山々に囲まれた緑豊かな村落で、「慶長6(1601)年 佐保カララ」や「慶長8(1603)年 上野マリア」の墓碑が残されています。でも、この事実は、江戸幕府の禁教と迫害の時代が長く続いたためか、1919年まで300年以上も知られないままでした
千提寺は、いつ、どういう成り行きでキリシタンの里になったのでしょう。キリシタン大名高山右近が、当時の慣習とは異なり、高槻城主でありながら下層領民の死者をていねいに弔うなど、信仰の道を歩んでいた時代、千提寺は、山ひとつ越えた音羽村などとともに、その所領に含まれていました。右近は領民への宣教に力を入れていましたので、そのころだったでしょうか。
千提寺には、キリシタンの殉教地はなく、殉教の記録も伝えられていません。でも、「キリシタンの世紀」(チャールズ・ボクサー)の信仰を今に伝える聖地のひとつです。聖母子像を上段に、イエズス会の創立者ロヨラの聖イグナチオと聖フランシスコ・ザビエルが手を合わせ、ご聖体を拝する絵を下段におき、それらをロザリオの祈りの15の場面が取り囲む「マリア十五玄義図」(重要美術品、京都大学総合図書館蔵)や、日本史教科書でおなじみの「聖ザビエル像」(重要文化財、神戸市立博物館蔵)、また、キリシタン版『どちりなきりしたん』(日本語版)や「真鍮製キリスト磔刑十字架」、さらに聖人の顔を刻んだメダイの数々が、1920年にこの千提寺で次々発見されました。
このたび千提寺の人々の発意と発案で、ご先祖が歩んだ「キリシタンの道」をバイリンガルの絵本『ザビエルさんのたから』にまとめ、刊行する運びとなりました。ザビエルを初めとする宣教師たちが蒔いたキリシタンの種が千提寺に根付き、キリシタンの里へと発展し、秘かな聖地として発見されるまでの物語です。ヨハネ福音書に「一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。だが、死ねば、多くの実を結ぶ」(12章24節)とあります。2017年2月7日、大阪城ホールにて高山右近をカトリック教会の福者に認定する列福式が執り行われました。その記念ミサで読まれた福音書は、この「一粒の麦」の譬えの箇所でした。ザビエルたちの蒔いた種と千提寺とを結んだ右近も、今回の企画を祝福していることでしょう。
Language: Japanese/English
Size: 29×21 cm
Price: 2000円
Pages: Hard cover, 32pp
Published: 2017/6/6
ISBN: 978-4990707439